河原の石ころ
私の故郷は昭和になって開かれた上越線とともに発展した温泉の町です。特に東京オリンピック後の経済成長とともに豊かになった街で、いわゆる社員旅行や家族旅行で大勢の方が訪れました。前にも書きましたが、国鉄の重要な駅でもあり、特急を含め全ての列車が止まった駅ですので観光にはとても便利でした。列車も12両編成が当たり前で、駅に着くとほとんどの人が下りてきます。私の家は駅から温泉街に通じる道に面していました。列車が止まってから少しして先頭の人が旗を掲げやってきます。そしてその列は30分以上切れることなく続きます。みんな温泉街に吸い込まれていきます。何百という人が温泉街にそろって向かってゆく様は、まるでアリの行列の様でもあり、ただ老若男女それぞれいろんないでたちで、いろんな顔をしていて飽きもせず眺めていられました。私の母は小さなお店を営んでいました。もちろん土産も扱っていて、温泉客相手に日曜日などは結構繁盛していました。わたしも幼いころから店に立つこともあり母の手伝いをしたものです。
昭和40年ごろと思いますが、石がはやったことがあります。眺めて楽しむもので、腕で抱えらる程度のもの、もしくは手のひらサイズといった類です。
山でとってきた石をグラインダーで削り、最後にパフがけで光らせるものが多く、どこのお土産屋でも売っていました。子供心になんでこんなもの買うのだろうと思っていましたが、母が「お前も川で拾ってきて売ってみれば」というので川原に降りて適当なものを数個拾ってきました。早速店先に並べると
あろうことか完売です。けっこうな小遣いになりました。味をしめなんどもなんども拾ってきては並べを繰り返しましたが、やがて石のブームは去ってゆきます。父が山の斜面でとってきた石が谷川岳にそっくりで、店に飾っておくと、譲ってほしいというお客が数多くいましたが父は最後まで売りませんでした。当時8千円でどうだという人もいて、今の価値なら数万円です。今その石は実家の片隅に転がされています。父は売りたくないのでなく、欲をかいて売りそこなったようです。
こんなような石を売ってみました