中里のとっつあん
運送会社時代のこと。大型トラックが何台もありまして、その中、数台ダンプ車がありました。社内ではダンプ班ということでひとつのグループになっていました。その班の責任者は中里さんという方で皆からは表題のように呼ばれていました。
歳は既に50代後半でやせ形、どこから見ても普通のおじさんです。中里さんはとても真面目な方で無遅刻無欠勤、ただ、注意散漫なのか事故は頻繁に起こしていました。性格は基本的には温厚ですが根は頑固で、私の注意もアドバイスも適当に流していたようです。
中里さんは甘いものが大好きでした。あんぱん、大福、ケーキ、チョコレートなどなど・・・運転しながら口にしていたそうです。また、食事も炭水化物のオンパレード、かつ丼にラーメン、ラーメンにチャーハン、それも大盛り・・・
そんな食生活のせいでしょうか、会社の健康診断で異常が発見されます。いわゆる糖尿病でかなりの重症のようです。会社としても対策をしなければなりませんので、本人には食事制限、特に甘いものを控えるように指導します。また、すぐに内科に行って精密検査を受けるように指示しました。
医者からはずいぶんと脅されたようで、食事も減らすことになりました。いままでのかつ丼にラーメンから蕎麦1品にしたとか、奥さんに弁当を作ってもらうようにしたとか・・・まぁよかった・・・私も一安心です。
一月ほどしたころ、若い運転手から「中里のとっつあん、全然懲りてないよ・・自販機のコーヒーにスゲェー量の砂糖を足して飲んでいるし、確かに飯も今まで2品だったのを1品にしているけど、1日3回も4回も飯食えば、前より量はふえたんじゃねーの?事務所から注意したほうがいいよ!」そんな話が出ます。
休憩室にはカップコーヒーの自販機があり、砂糖、ミルクは増量が何度でもできるようになっています。中里さんは砂糖を3倍、ミルクも3倍入れていたようです。
「中里さん!砂糖控えないとだめだよ!病気が悪化するよ!ごはんも同じく食べていたら早死にするよ!」
「大丈夫、コーヒーはお湯で割って飲んでいるから・・・」という中里さん・・目はマジです。
いくら薄くしても全部飲めば砂糖はたくさん飲んでいると思うけど・・・
1回の食事は減らしても1日の量はかえって増えている・・
中里さんに真剣に説明しましたが、本人には通じません。頑固です。
それから6年後、糖尿病から腎臓を悪くして透析する羽目になった・・・・風の便りで聞くことになります