母のおでん屋さん

母は、自分のお土産屋でいろんなものを売ってました。アイテムは季節ごとに切り替わります。先にも書きましたが春は山菜、秋はキノコ、夏には「ところてん」も扱いました。そして冬には「おでん」を始めます。おでんの具材はだいこん、たまご、こんにゃく、ちくわ、さつま揚げなどですが、1本ずつ串に刺して売るスタイルです。なべは普通のアルミ鍋の大きいもの、専用の鍋ではありません。燃料は七輪でコトコトと一日中弱火で煮込みます。だしはこんぶのみで醤油あじ。母のおでんは評判が良く、けっこう売れていました。ただし、テイクアウトではなく、器に盛って店のテーブルで食べるスタイルです。そんなお客さんが決まって言う言葉があります。「汁を多くいれてくれ」そしてゆっくりと味わいながら食べるのです。汁は「ただ」なので、お代りを求める人もいて・・・確かに母のおでんは絶品でした。ですが、腕がいいわけではなくその具材に秘密があります。汁は醤油だけを入れたものに、だしとして入るのは、最終的にはおでんの具として販売される昆布のみ、そして作り置きはしない。日ごとに仕込みなおします。そして、「近海もので作った、ちくわやさつま揚げなど練り物」それが美味しさの秘密です。当時の練り物は近海ものがほとんどで、今では高級品とされるものが、普通の魚屋で普通に売られていたようです。東京オリンピックを境に、近海ものが姿を消していったようで、(想像です)子供心に「近頃のさつま揚げは、まずい」そう思ったのを覚えています。(生意気なガキです)

この話をすると、妻に「おかあさんのが一番うまいだろう」と茶化されます。そして、なんにでも醤油をかけたり、柔らかいうどんがあまり好きでないのも妻と正反対です。だれでも自分が育った味がすりこまれますので、幼いころに食べた物を美味しいと思うのは、仕方がないのですが、母の料理はとにかく「醤油」が基本で、ソースなどは口にしたことがなく、その意味では、偏った味つけで育ったようです。

家庭のおでんですが・・・・串のバージョンです