鳥ふんじゃった
高校2年の時の話です。実家の前は高崎線の土手になっています。高さは8メートルくらいあって、結構な斜面になっています。
とある日曜日、ふと眼をやると線路の金網に水色の鳥がとまっています。よく見るとセキセイインコです。たぶん逃げられるだろうとは思いましたが、斜面をゆっくり登りインコに近づきました。その距離50センチ。まだ逃げません。捕まえてやろうと手を差し出しました。するとインコはおもむろに私の指をつついています。そのまま手に乗ってきました。どこかで飼われていたものらしく、人に十分なついています。そのまま家に連れて行きます。
その日から我が家に新しい家族ができました。インコはとてもよくなついていて、私の肩や頭の上で遊んでいます。居間の神棚のごぼう締めの上が気にいったと見えて、寝床はそこになりました。毎日、よく遊びました。私の耳たぶをかむのが好きで、アマ噛みしているときに横を向くとそのままぶら下がっています。
そんな楽しい日々もやがて終わりを迎えます。インコはよく畳の上を歩いていました。そのインコを父が踏みつけてしまいます。「アァ~!なんだ!どうした!」父の叫び声・・・・大急ぎで駆けつけると、インコが羽をばたつかせています。何事かわからないうちに手にとりました。インコはまもなく私の手の中で息を引き取ります。父は何も言いません・・・私もなにも聞きません・・・・聞かなくても状況はわかります。途方に暮れ困り切った父・・・・
インコがやってきたころ、学校も何だか面白くなく、思春期独特の孤独感を感じていたときで、インコが唯一の友達の様な気がしていました。その友達を父は踏み殺してしまいます。息子がこのごろ気難しいのは感じていたようです。その時の父の表情は、世界中の不幸を一身に背負ったようで・・・・
その日から1ヶ月間私は父と話をできませんでした。
立ち直るきっかけは父が罪滅ぼしに買ってきた手乗りのインコのひな。元来鳥好きな父でしたので雛を上手に育て上げます。前のインコと同じように肩や頭の上で遊び耳たぶにぶら下がります。
「今度は踏むなよ・・・」それが1カ月ぶりに父にかけた言葉でした。