運送会社時代その1 ツインカムイワタ
私が40になろうとしている頃の話です。その頃私は運送会社の部長をさせていただいておりました。同僚に田中さん(仮名)と言う方がいました。表題はその方が、当時の会社の専務つけたあだ名です。
専務はイワタさん(仮名)と言いました。私より10歳ほど上の方で、普段は何もしないでデスクにすわり、鼻くそをほじりながら一日を過ごしていた方です。なんでも社長の古くからの友人で、社長のための防波堤みたいな役目の方でした。
この人が普段とはうって変わって生き生きと仕事をすることがあります。そのひとつが荷物事故の処理です。運送会社には事故はつきもので、荷物にも保険をかけています。運送の途中に自損事故で荷物を破損してしまうと、荷主に弁償しなくてはなりません。そのための保険です。
話は、伊勢崎市内の、ある大手の菓子メーカーの水ようかんを破損してしまったことから始まります。運転手のミスで荷物の一部を転落させてしまい、弁償しなくてはならなくなりました。保険はきちんとかけてあったので荷物の弁償は滞りなく行われます。荷物は一部が破損しただけですが、荷主の意向で全て廃棄ということになりました。廃棄には産業廃棄物の処理が必要で、産業廃棄物業者の証明が必要です。もちろんその廃棄処理の経費も保険からおります。保険会社の指示通り、荷主の指示通りに事は進んでいきます。保険の書類は私が処理していましたので、事の進捗状況はわかります。しかし事務的なことは進んでいるのですが、肝心の水ようかんはいつまでたっても倉庫に保管されたまま。本来ならば廃棄されているはずの水ようかんが倉庫に保管されているのです。
何日かしてことは動き始めます。専務が水ようかんを色んなところに配っているらしい。そんなうわさが社内で立ち始めました。そして、何日後かには、会社の近くのディスカントストアの店頭に山積みになった水ようかんが並んでいるのです。値段は定価の半値以下・・・私はそのディスカントストアの店員と懇意でしたので、思い切って聞いてみました。
「この水ようかんどうしたの?」
「うん。おたくのお偉いさんに売ってもらったって社長が言ってたよ」
どうやら、事故の商品を横流ししたらしい・・・・
以下は私と田中さんとの話です。
「田中さん、専務が水ようかん横流しちゃったらしいよ」
「知ってますよ。でもそれだけじゃないんです。産廃の処理料金もキックバックしてもらったらしいです。運転手してたA君が産廃のS社の社長が専務に封筒渡しているのを見たそうです。ディスカウントストアのお金と産廃のお金が両方入ってきたらしいです。」
「本当なの?」
「本当ですよ。専務のことなんていうか知ってますか?ツインカムイワタと言うんです」
「ツインカムって車のエンジン?」
「そうです。ツインカムエンジンのように馬力があります。専務はバックマージンには本当に力を出します」
「うまいこと言うねぇ」
「そうじゃないんですよ。ディスカントストアからの収入とキックバックの収入でツーインカム、ツインカムです!」
ツーインカムとは両方から収入があるということです。ツインカムは高性能の自動車エンジンの別称です。
田中さん(仮名)はツーインカムとツインカムをかけていたのです。
そんな不正を働いていた専務も数年後首になります。何事にもツインカムで臨んでいましたが、最後には社長の逆鱗に触れて去って行きました。
運送会社時代の話はまだまだ続きます。