伝書鳩
鳩レース放鳩の瞬間
私の父は伝書鳩を飼っていました。家の一角を鳩舎に改造して30羽ほど飼育していました。私が中学生になる頃、飼育係は私に引き継がれます。朝、鳩舎の戸をあけ払うと30羽の鳩たちは一斉に空に飛び立ちます。約20分ほど空を旋回すると鳩舎に戻ってきます。その間鳩舎の掃除、水の取り換え、餌の準備をします。鳩は帰ってくると次々と鳩舎に飛び込んできます。落ち着きのない眼で私をみて餌をねだります。餌は主にトウモロコシで色んなな穀物が入っている鳩用の餌です。なかに稀に入っているのが麻の実で鳩が疲れた時の栄養補給によく使います。
さて、伝書鳩(レース鳩)は、飛翔能力と帰巣本能が優れ、1000Km 以上離れた地点から巣に戻ることができます。名前の通り、使い方としては、遠隔地へ伝書鳩を輸送し、脚に通信文を入れた小さな筒を付けて放鳩(ほうきゅう)し、飼育されている鳩舎に戻ってきたところで通信文を受け取ります。通信文だけでなく、伝書鳩が持てるような小さな荷物を運ぶこともあり、その場合は背中に背負わせます。血清や薬品等の運び手として重要な役を担っていました。伝書鳩が迷って戻れなくなったり、タカやハヤブサなどに襲われて飛行不能・未帰還に終わることもあります。そのため通信目的を確実に果たせるように同じ通信文を複数の伝書鳩に持たせて放されることも多かったようです。伝書鳩(レース鳩)は1000km以上離れた地点から戻ることができますが、通常は200km以内の通信・運搬等に使われました。父の鳩も200kmレースによく出したものです。
先日、テレビで伝書鳩、レース鳩の番組をやっていました。昔を懐かしみながら見ていましたが、現在は鳩を飼う場所が年々限られたものになって鳩を飼育する人も少なくなっているようです。本当に好きな人が飼っている。そんな時代ですが、日本鳩レース協会では今も鳩レースを行っています。今、お隣の中国は鳩に夢中な様子です。日本が鳩ブームに沸いたのが1960年代、先の東京オリンピックの開会式での放鳩がきっかけですが、史上最高のレース鳩とされるベルギーの「アルマンド号」がネットオークションにかけられ、過去の記録をはるかに上回る140万ドル(約1億5600万円)で中国の愛好家が落札したように、経済力の上昇につれ鳩に夢中な中国人が増加中のようです。そんな中国で750kmのレースが行われました。ですが、優勝した鳩のタイムがあまりにも速かったため主催者は調査に乗り出します。その結果、ゴンとチャンと呼ばれる2人の若い男が逮捕されます。彼らは不正を働き1位から4位までを総なめし、約1620万円(100万元)もの賞金を獲得しています。彼らはレースが開始されると同時に鳩を牛乳パックの押し込み高速列車に乗ってゴール近くまで向かったそうです。しかし河南省と上海市に設置してある鳩舍(餌のチェックポイント)を経由した記録もなかったことから、ゴールに直行していたことが発覚し、不正が明らかになったそうで、最終的に上海で裁判にかけられ懲役3年をくらっています。ちなみにこのレースは、コース中の2か所に設置されている鳩舎を覚えさせてから出場するルールとなっているので、不正が発覚したそうです。何とも中国らしいのですが・・・
私が鳩を飼ったのは、日本の鳩ブームが収まってきたころですが、小学生中学生などお金のない人が中心で、伝書鳩も最高クラスでも5万円くらいでした。今の中国の鳩ブームはどんなものでしょうか・・・情報では金持ちを中心としたもので、投機目的もあるようです。先の不正に利用されたハトは証拠隠滅のため殺害されたそうで、何とも気の毒です。
テレビを見ながら、「鳩また飼ってみたいな・・」とつぶやくと「近所迷惑だから無理だよ」と妻。昔ほどのおおらかさは鳩の糞害にはないようです。
「アルマンド号」 140万ドル(約1億5600万円)で中国の愛好家が落札した鳩です