893にかこまれた
運送屋には事故はつきものです。いまは任意保険に入ってない車などほとんどないと思いますが、私が入社したころの運送屋さんは半分の車両しか加入していませんでした。何事もそうだと思いますが、いざ事故が発生するのは、大抵無保険の車両で、後々の賠償やら示談交渉やら難儀したものです。
何年かしてやっと全車両に任意保険に加入することになります。代理店は藤岡のKさん。若くてバリバリの保険マンです。これでだいぶ楽になる・・・そう思ったのもつかの間、大きな事件が舞い込みます。
場所は埼玉県の羽生、納品の帰りのことです。4トン車と乗用車がすれ違いざまに接触します。運転手は木工君、助手は永瀬君。木工君、連れがいたので気が大きくなっていたのか乗用車に向かって叫びます。「どこ見てんだぁ!!!傷ついちまったじゃねぇか!!!この馬鹿野郎!!」
次の瞬間、乗用車から見るからにそれとわかる集団が瞬間移動のようにやってきて、木工君、永瀬君二人はトラックから引きずりおろされ、道路の真ん中に正座させられます。
「カタギに吠えられたんじゃ恰好つかねぇ、この先の広い空地まで行ってくれ。一人はこの車にのれ・・」
空き地で会社に電話するように言われます。
「課長さん・とんでもねぇことになっちゃったよ・・・直ぐに来てくれよ!殺されちゃうよ!!!」
絞り出すような声で木工君、窮状を訴えます。
「会社の方かい・・とにかく来てくれ。話がしたい。」
どすの利いた声でゆっくりと・・・
「羽生のN木材まで来てくれ」
そう言って電話は切れました。
トラックは永瀬君が運転して帰ってきます。木工君は囚われの身・・・
珍しく社長がいたので報告すると、社長は行きたくない様子。他も同様です。木工君から助けてくれと言われた手前、私が行くしかないようです。
羽生には2時間ほどで到着しました。普通の事務所の構えです。ドアを開け「すみません…△△産業です・・」
言い終わると若い衆が5,6人ドヤドヤと出てきます。
「お待ちしてました。こちらにどうぞ」
言葉は丁寧ですが、威圧感が半端ありません・・にらんでいるようなあんちゃんもいます。
応接に通されソファーに促されます。
座ったとたん、後ろに10人以上横には5人ほどの若い衆に囲まれます。もう立ち上がることもできません・・・
やがて親分らしき人物が木工君を連れてやってきました。
木工君を親分の隣に座らせます。木工君は下着姿、親分は「暑がりと見えて自分で裸になった」とは言ってますが・・・
仕事って恐ろしいです。こんな状況でも、臆病の私でも話付けるしかないようです。
脅されたような状況下でしたが、30分ほどで、話は終わります。後で知りましたが、彼らは、恐喝されたなどと、あとで警察に届けらるのがとても困るようです。
運転手、会社の詫び状を書くこと、こすった傷は保険で直すこと、私にとってはすんなりとことは収まりましたが、あとで保険屋さんの話では修理代のほか休業損害やらなんやかんやで200万以上の保険金額になったそうです。最初から保険が目的だったようです・・・
別れ際に親分が一言
「よく来てくれた。これからは親戚のようなもんだ。困ったら何でも相談してくれ」
「わかりました。」
あなた方とは2度と会いたくないです・・・・・服を着た木工君を連れ帰路につきます。