中原中也

生来、本が好きで、特に高校生になってからは読書にふけったものです。高校2年の秋、本屋でふと目に留まったのが表題の岩波文庫でした。

中原中也(なかはら ちゅうや)は1907年(明治40年)4月29日に、現在の山口県山口市湯田温泉の中原医院で生まれます。(ちなみに4月29日は昭和天皇の誕生日、私の弟の誕生日でもあります。)代々開業医である名家の長男として生まれ、跡取りとして医者になることを期待され、小学校時代は学業成績もよく神童とも呼ばれますが、8歳の時、弟が風邪により病死したことで文学に目覚めます。中也は30歳の若さでなくなりますが、生涯で350篇以上の詩を残しています。その一部は、結婚の翌年刊行した処女詩集『山羊の歌』、および、中也の死の翌年出版された第2詩集『在りし日の歌』に収録されています。訳詩では『ランボオ詩集』や、アンドレ・ジイドの作品などの翻訳もしています。

その生涯は短く、また波乱万丈です。一言で言うとあまり幸福ではなかったような気がします。

中原中也の詩の中で、高校生の私が好きだった詩を載せておきます。

生い立ちの歌 
   Ⅰ

    幼 年 時
私の上に降る雪は
真綿(まわた)のようでありました

    少 年 時
私の上に降る雪は
霙(みぞれ)のようでありました

    十七〜十九
私の上に降る雪は
霰(あられ)のように散りました

    二十〜二十二
私の上に降る雪は
雹(ひょう)であるかと思われた

    二十三
私の上に降る雪は
ひどい吹雪(ふぶき)とみえました

    二十四
私の上に降る雪は
いとしめやかになりました……

   Ⅱ

私の上に降る雪は
花びらのように降ってきます
薪(たきぎ)の燃える音もして
凍(こお)るみ空の黝(くろ)む頃

私の上に降る雪は
いとなよびかになつかしく
手を差伸(さしの)べて降りました

私の上に降る雪は
熱い額(ひたい)に落ちもくる
涙のようでありました

私の上に降る雪に
いとねんごろに感謝して、神様に
長生(ながいき)したいと祈りました

私の上に降る雪は
いと貞潔(ていけつ)でありました